tag:blogger.com,1999:blog-24267281089468223672024-03-19T13:40:30.334+09:00エスペランサの本棚これまでに訳した本を紹介します。KUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comBlogger9125tag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-20233111444347282262010-06-15T09:42:00.000+09:002010-06-15T09:43:33.582+09:00鉄の時代<a onblur="try {parent.deselectBloggerImageGracefully();} catch(e) {}" href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjXnJinBJJaDv9rGtZ0rTttRrVITJh3ipvxdtRrfx5H2Npe8m4GdXEQT1ionKb_YHRClmxQsRAQ6yaUNRCIsL2UCz96cX06BLI6JMeNNeSWBuwmd0EyARl_utKsHHnZGfpeoH6h3MLhm3Yv/s1600-h/51g9X4g9vGL._SL500_AA240_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;width: 200px; height: 200px;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjXnJinBJJaDv9rGtZ0rTttRrVITJh3ipvxdtRrfx5H2Npe8m4GdXEQT1ionKb_YHRClmxQsRAQ6yaUNRCIsL2UCz96cX06BLI6JMeNNeSWBuwmd0EyARl_utKsHHnZGfpeoH6h3MLhm3Yv/s200/51g9X4g9vGL._SL500_AA240_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5367156265506922514" /></a>少年の見開かれた目を思うたび、<br />わたしの表情は醜悪になっていく。<br />それを治す薬草は、<br />この岸辺の、いったい<br />どこに生えているのだろう。<br /><br /><br />*************<br />オリジナル・タイトル:Age of Iron by J.M.Coetzee<br /><br />付記:この『<a href="http://www.amazon.co.jp/鉄の時代-世界文学全集-1-11-J・M-クッツェー/dp/4309709516/ref=pd_ts_b_1?ie=UTF8&s=books">鉄の時代</a>』は1980年代後半のケープタウンを舞台にした小説です。南アフリカのアパルトヘイト体制末期の激動の時代。20代にいったんは去った南アフリカへもどり、以来、その地に住みつづけて数々の傑作を発表してきたJ.M.クッツェーが、当時の社会状況と拮抗するような、緊迫感にみちた筆致でしたためた作品です。<br /><br /> 人が人と心を通わせることは可能だろうか? 人を信頼することは可能だろうか? 人は自分とは異なる存在を受け入れることができるものなのか? 人はあたえられた運命をどのように生きたらいいのか? ガンの再発を告げられた70歳の白人女性、元ラテン語の教師、エリザベス・カレンを容赦なく襲う出来事。彼女の脳裏をさまざまな問いがよぎります。<br /><br /> これは、ぎりぎりのところに立たされた人間が、最後まで諦めずに、過酷な抑圧制度のなかで切り離された存在(他者)への信頼──いや、信頼への可能性──を必死でつなぎとめようとする物語、として読むことができます。もちろん、ほかにもいろんな読み方ができるでしょう。<br /> <br /> クッツェーの作品では、読者は容易に主人公に自分を重ねることができません。いつでも読後に、ざらりとした感触が残ります。あえてそのように書く作家だともいえます。ハッピーエンドや心地よさに読者を誘うことを嫌います。しかし作品には恐るべき力技が秘められていて、「小説」という形式をもちいることでのみ読者に届くものが存在することに、読後、読み手は深く思いいたることになります。作品が読者のもっとも深いところへ無意識に揺さぶりをかけるからです。<br /><br /> アパルトヘイト下の南アフリカという剥き出しの暴力世界との緊張関係のなかで、検閲制度をかいくぐり、数々の偽装を凝らしながら、南アという地域性をはるかに超える作品を書いてきた作家、それが J・M・クッツェーです。『鉄の時代』の主人公、エリザベス・カレンのさまざまな自問への答えは、ひょっとするとそのまま、彼女が呼びかける「あなた」にかかっているのかもしれません。<br /><br />***************<br />付記:2008年10月12日の日経新聞に掲載された武田将明氏の書評が<a href="http://masaaki-takeda.tea-nifty.com/swiftiana/2008/11/post-56c8.html">このサイト</a>で読めます。KUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-76390528680071074622009-02-24T20:17:00.010+09:002009-02-25T11:55:41.500+09:00パレスチナから報告します──占領地の住民となって<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg9ClG8fHErPqxboLq71WkhufYcCo8VTfpgWRKVzJscI3X4rF72az0R_oN-68n7XBcjLBbPngL5UaZBumlt4gHTRPjbMnPSPIYIUZDOsv0fvf9hef-ddT1KJ0rkG4s2YjreYk25R_S1gZ0C/s1600-h/51ADA8WS1JL._SL500_AA240_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;width: undefinedpx; height: undefinedpx;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg9ClG8fHErPqxboLq71WkhufYcCo8VTfpgWRKVzJscI3X4rF72az0R_oN-68n7XBcjLBbPngL5UaZBumlt4gHTRPjbMnPSPIYIUZDOsv0fvf9hef-ddT1KJ0rkG4s2YjreYk25R_S1gZ0C/s200/51ADA8WS1JL._SL500_AA240_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5306319620134572946" /></a> 2008年12月、イスラエルがガザに向かって空爆を始め、一週間後に予定通り、地上侵攻に切り替えて、狭くて人口の密集した地区を徹底的に破壊した。テロとの戦争との名目で、子供たちの手足を吹き飛ばし、負傷者を運ぶ救急車を狙撃し、治療にあたる医療者まで銃撃して殺した。<br /> その間、イスラエル人ジャーナリストのアミラ・ハスは、ガザ住民との連絡を絶やさず、実名入りで被害のようすを「ハアレツ紙」に書き続け、いまも書き続けている。<br /><br /> その一部を「エスペランサの部屋」で訳出したのは、ほかでもない、この『<a href="http://www.amazon.co.jp/パレスチナから報告します-占領地の住民となって-アミラ・ハス/dp/4480837132/ref=sr_1_8?ie=UTF8&s=books&qid=1235474085&sr=1-8">パレスチナから報告します</a>』(筑摩書房刊)を2005年5月に私が訳出したからだった。訳しながら、「そうだったのか!」と何度も思った。それまで、あまたの解説書では知り得なかった、まさに現場の事実を突きつけられたような思いがした。曇っていた視界がすっと開けた。<br /> イスラエル人に向けて書かれた新聞記事は、遠いアジアの国の読者にとって、そのままでは咀嚼しきれない要素もあったけれど、現場から発せられる声は圧倒的な重さをもって響いてくる。ジャーナリズムとはこういうものか、という目から鱗の瞬間も何度もあった。<br /><br /> ところが2008年秋、この本は版元のカタログから落ちることになった。イスラエル/パレスチナを知るための基本図書ともいえる本だったのだが、本当に残念だ。まさかその年の暮れからガザ攻撃が始まるとは、思ってもみなかった。そしていまでは、古書でかろうじて入手できる状態。<br /> 現代における「カッサンドラ」といわれるジャーナリストの、現場からの切実な声が伝わってくる、唯一の邦訳書だったのだけれど・・・。<br /><br /> なんらかのかたちで復刻され、読者の手にいつでも入るかたちになることを、切に願っています!KUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-89563509468791792482008-12-05T18:05:00.011+09:002008-12-05T18:38:05.991+09:00アフター・ザ・ダンス <a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjy6SRo1Phu0B2Wvp0Elf5hN3U4SVeFES7r4vwPey_96zVQJB4Knqdn7apfTUIq0aYI2-_KQwGvLt3SZ0eSyXrTsj9DYc9YOmu5iZPhu2_5rhIeOfLxz5LPbstCGyshQRYxYoWIjLeMUdTb/s1600-h/51QP58WT98L._SL500_AA240_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;width: undefinedpx; height: undefinedpx;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjy6SRo1Phu0B2Wvp0Elf5hN3U4SVeFES7r4vwPey_96zVQJB4Knqdn7apfTUIq0aYI2-_KQwGvLt3SZ0eSyXrTsj9DYc9YOmu5iZPhu2_5rhIeOfLxz5LPbstCGyshQRYxYoWIjLeMUdTb/s320/51QP58WT98L._SL500_AA240_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5276237207969772994" /></a><ハイチ、カーニヴァルへの旅><br /><br />子どものころは「絶対だめ!」と、牧師の叔父さんから参加を禁じられていたカーニヴァル。そのカーニヴァルに参加するため、ハイチ出身のエドウィージ・ダンティカがジャクメルへ旅する帰郷ノートです。<br /><br /> ハイチがどんな国か、この『<a href="http://www.amazon.co.jp/アフター・ザ・ダンス―ハイチ、カーニヴァルへの旅-エドウィージ-ダンティカ/dp/4773803045/ref=sr_1_14?ie=UTF8&s=books&qid=1228469485&sr=1-14">アフター・ザ・ダンス</a>』を読むとよくわかります。国の成り立ち、歴史、文化、宗教をおさらいしながら、そこに住む人々の素顔までのぞけるガイドブック。といっても具体的な旅の情報ではありません。<br /> 年に一度のカーニヴァルがハイチの人々にとってどれほど重要なものか、ハイチから離れて北米で暮らすエドウィージや家族にとって、故国に暮らす人々とのつながりがどれほど大切か、そういったことが滲み出ている本です。<br /> 「Yes, Obama!」のステッカーを早くから車に貼っていたというダンティカさん。よかったね!!!<br /><br />オリジナルタイトル:After the Dance by Edwidge Danticat<br /><br /> エドウィージ・ダンティカ『アフター・ザ・ダンス』(現代企画室より、2003年刊)KUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-39856578657041658942008-12-01T10:20:00.008+09:002008-12-01T17:26:24.841+09:00マンゴー通り、ときどきさよなら<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjf2Wmt8TMKpnMhzz2sYTdrwwkMn5q6IDG2fDeWCghZALeD_ekkLYhiOUUll5Ndn5WMBoVTlQRNb4bYo78ETvS_DbVm8MOjS5rl5WCd1vieLOriSMF13za9zVReq0oCFiN6oHUOU3zLzZCG/s1600-h/513E7C97GZL._SL500_AA240_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;width: undefinedpx; height: undefinedpx;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjf2Wmt8TMKpnMhzz2sYTdrwwkMn5q6IDG2fDeWCghZALeD_ekkLYhiOUUll5Ndn5WMBoVTlQRNb4bYo78ETvS_DbVm8MOjS5rl5WCd1vieLOriSMF13za9zVReq0oCFiN6oHUOU3zLzZCG/s320/513E7C97GZL._SL500_AA240_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5274629086547524706" /></a>ちょっと裏話をしましょうか。<br /><br /> この本のオリジナル・タイトルは「<a href="http://www.amazon.co.jp/House-Mango-Street-Sandra-Cisneros/dp/0072435178/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=english-books&qid=1228095026&sr=1-1">The House on Mango Street</a>」、日本語にすると「マンゴー通りの家」となりますが、当時、版元の編集部の人たちが、それでは「動き」がなさすぎる。もっと、なにか読む人の心を引きつけることばはないものか…と随分と時間をかけて、頭をひねって、つけてくれたタイトルが、この「ときどきさよなら」の部分です。<br /><br /> これは本文中に出てくることばで、主人公が育ったマンゴー通りとそこに住む人たちとの関係が、とてもよくあらわれていると思います。タイトルとしてはやや長めですが、含みのある、印象深いものになりました。<br /><br />『<a href="http://www.amazon.co.jp/マンゴー通り、ときどきさよなら-サンドラ・シスネロス/dp/4794962843/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1228030275&sr=1-1">マンゴー通り、ときどきさよなら</a>』と『<a href="http://www.amazon.co.jp/サンアントニオの青い月-サンドラ・シスネロス/dp/4794962878/ref=sr_1_17?ie=UTF8&s=books&qid=1228029612&sr=1-17">サンアントニオの青い月</a>』の表紙はいずれも、さわだとしきさんが描いてくださったものです。どちらもとっても素敵な絵です。KUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-77749781346859431252008-11-30T16:21:00.006+09:002008-12-01T17:51:34.339+09:00サンアントニオの青い月<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh6IjIS112t4w4iOjdIB2lCJZ13g2rRftOc6ItdV5mqfeieFeBV7pCJgt8RON2TZf7Ngzb-6Tf3FxvwBt7mt5c-LZXwUg9EZTk7_Iy6r_V4EAwHaGl2r5I7OsA2gINPDZVyE6dQCf-Nlj8l/s1600-h/51AC9VES3SL._SL500_AA240_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;width: undefinedpx; height: undefinedpx;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh6IjIS112t4w4iOjdIB2lCJZ13g2rRftOc6ItdV5mqfeieFeBV7pCJgt8RON2TZf7Ngzb-6Tf3FxvwBt7mt5c-LZXwUg9EZTk7_Iy6r_V4EAwHaGl2r5I7OsA2gINPDZVyE6dQCf-Nlj8l/s320/51AC9VES3SL._SL500_AA240_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5274348251300601458" /></a>ずいぶん前に訳した本ですが、いまでもとても愛着があります。著者のサンドラ・シスネロスはこの本の装幀がとりわけ気に入って、亡くなる直前のお父様に見せることができてよかった! と手紙をくれたのを思い出します。<br /> <br />『<a href="http://www.amazon.co.jp/サンアントニオの青い月-サンドラ・シスネロス/dp/4794962878/ref=sr_1_17?ie=UTF8&s=books&qid=1228029612&sr=1-17">サンアントニオの青い月</a>』は『<a href="http://www.amazon.co.jp/マンゴー通り、ときどきさよなら-サンドラ・シスネロス/dp/4794962843/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1228030275&sr=1-1">マンゴー通り、ときどきさよなら</a>』の姉妹篇。といっても、『マンゴー通り』がシスネロス・ワールドへのきらきらしい入口であるとしたら、これはぐんとディープでホットな物語世界です。合州国とラテン・アメリカ、とりわけメキシコとの国境を行き来する人たちを活写する筆致には、目をみはるものがあります。<br /> いずれも1996年、晶文社刊。<br /><br />オリジナル・タイトルは、Woman Hollering CreekKUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-30205496657152210492008-11-30T11:33:00.023+09:002008-12-04T09:09:05.937+09:00アメリカにいる、きみ<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiUfo2LrEwypBfSwYhzqW-I5kMYx7B8fBVDBfFqQDgXgfsMivVI9ixswPF-cHgCEU5l1h3wSzUXcMyfeY7LEKrGphqu-UDYt01Qg4Yogc8tmzTWMhy_qLqQ2TKiRF52-OsBgEu9A6I8mr_5/s1600-h/4309204791.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;width: undefinedpx; height: undefinedpx;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiUfo2LrEwypBfSwYhzqW-I5kMYx7B8fBVDBfFqQDgXgfsMivVI9ixswPF-cHgCEU5l1h3wSzUXcMyfeY7LEKrGphqu-UDYt01Qg4Yogc8tmzTWMhy_qLqQ2TKiRF52-OsBgEu9A6I8mr_5/s200/4309204791.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5274339895289019378" /></a>ナイジェリア出身の若い作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/Chimamanda Ngozi Adichie が、雑誌などに発表した短篇のなかから訳者が選び、日本語に訳したものです。世界初の短編集で、収められた作品はつぎの10篇。<br /><br /> アメリカにいる、きみ<br /> アメリカ大使館<br /> 見知らぬ人の深い悲しみ<br /> スカーフ──ひそかな経験<br /> 半分のぼった黄色い太陽<br /> ゴースト<br /> 新しい夫<br /> イミテーション<br /> ここでは女の人がバスを運転する<br /> ママ・ンクウの神さま<br /><br />(『<a href="http://www.amazon.co.jp/アメリカにいる、きみ-Modern-Classic/dp/4309204791/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1205932923&sr=1-1">アメリカにいる、きみ</a>』河出書房新社より、2007年9月刊)<br /> *日本独自版ですのでオリジナル版(原書)はありません。KUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-18453568647872613702008-08-22T17:42:00.025+09:002008-12-03T18:04:15.450+09:00マイケル・K<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh1pyT5FU_U8R_WaxeJ1j9LIPXtPdcTNT5UFcRfjT0acZ1vRPwbQFHOkcxeynvFbdsPj6sAltpTgIVeqw_52IAgTJBQk26-11_N1xfierU42RxHelUSzH_knVky5nK6GHUCDWNMcvf1o3wi/s1600-h/51Q0AVQWX4L._SS500_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh1pyT5FU_U8R_WaxeJ1j9LIPXtPdcTNT5UFcRfjT0acZ1vRPwbQFHOkcxeynvFbdsPj6sAltpTgIVeqw_52IAgTJBQk26-11_N1xfierU42RxHelUSzH_knVky5nK6GHUCDWNMcvf1o3wi/s200/51Q0AVQWX4L._SS500_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5237260407469814082" /></a><a href="http://www.chikumashobo.co.jp/pr_chikuma/0609/060907.jsp"> 人はどこまで自由でいられるか。</a><br /><br />『<a href="http://www.amazon.co.jp/マイケル・K-ちくま文庫-J-M-クッツェー/dp/448042251X/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1228295026&sr=1-2">マイケル・K</a>』は、クッツェー氏の一連の作品の底に流れるこのテーマが、より鮮やかに描かれた作品と言える。<br />「あなたが描くのは、歴史の中の個人の運命ですね」。97年、私がそうたずねると、クッツェー氏は迷うことなく、こう応じた。「そうです。私が描くのは、あくまでも個人の運命です」<br /><br /> ********<br />上のことばは2006年8月、拙訳『マイケル・K』が<ちくま文庫>に入ったときに、藤原章生さんが書いてくれたものです。藤原さんは南アフリカ滞在中にこの本の著者、J.M.クッツェー氏にインタビューした唯一の日本人ジャーナリストです。<br /><br />オリジナル・タイトル:Life and Times of Michael K by J. M. CoetzeeKUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-8774700074776330462008-08-22T15:02:00.021+09:002008-12-03T18:03:03.445+09:00少年時代<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgi-cRGKbzcPxjnsv6hZ2HeClxHrzKotezqtSi1atRHt1TJg5CleB8V_ZYoamBbkaaBzE_O1Tb4QQYWg5Y9joOKIGSlD88TE23wAyzBclXQTj96WMFyFZk4eNpF7Vq09M_HBdhR5HBvtOUX/s1600-h/4163MY5F2GL._SL500_AA240_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgi-cRGKbzcPxjnsv6hZ2HeClxHrzKotezqtSi1atRHt1TJg5CleB8V_ZYoamBbkaaBzE_O1Tb4QQYWg5Y9joOKIGSlD88TE23wAyzBclXQTj96WMFyFZk4eNpF7Vq09M_HBdhR5HBvtOUX/s200/4163MY5F2GL._SL500_AA240_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5237218893295115778" /></a><震える針先、揺れる心><br /><br />1999年8月にこの本が出るとすぐ、朝日新聞に(1999.9.5)清水良典氏の書評が載りました。とてもみずみずしい文章で、「少年」というものの普遍性と、クッツェーという作家の記憶への謙虚さを見抜いた鋭い評です。下にその一部を──。<br /> *****************<br /><br /> だれでも自分のなかに最初の記憶を持っている。ぜひ一度、努めて思い出して文章に書いてみるといい。思い出さないままでいると、記憶は浜辺の貝みたいに時間の砂にもぐり込んで姿を消してしまう。──中略──本書では記憶の主がすべて「その子」と、三人称で書かれている。そしておよそ十歳から十三歳ごろにかけての生活の断片が回想されている。その記憶が「私」と同一視されていないことは、些細なようだが大事なことだ。今の自分と切り離すことは、過去の自分を曇りなく眺めることであると同時に、現在の見方の傲慢さを戒めることだからだ。そういう誠実さが、震える針先のような少年の心を再現しえたのだろう。──中略──十四歳以降の揺れる思春期が話題になりがちだが、それ以前からひとの心は揺れているのだ。読むうちにその振動と共振する、自分のなかの「少年」がいとおしくなる。(朝日新聞/1999.9.5 清水良典氏の書評より)<br /> ********************************<br /><br /><抄訳><br /><br />犬がほしい、母親はそう決める。ジャーマンシェパードがベストね──いちばん賢くて、いちばん忠実だから──でも、売りに出されているジャーマンシェパードはいない。そこでドーベルマンが半分、ほかの血が半分混じった仔犬にする。その子は自分が名前をつけるといってきかない。ロシア犬ならいいのにと思うので、ボルゾイと呼びたいところだが、本物のボルゾイではないので、コサックという名前にする。だれにも意味がわからない。みんなは、コス・サック(食糧袋)という意味にとって、変な名前だという。<br /> コサックは聞き分けのない、訓練されていない犬だと判明する。近所をうろついては庭を踏み荒らし、鶏を追いまわす。ある日、その子の後ろから学校までずっとついてくる。どうしても追い返すことができない。怒鳴りつけて石を投げると、両耳を垂れ、尻尾を両足のあいだに挟み込み、こそこそ離れていく。ところが、その子が自転車に乗ると、またすぐ後ろから、大股でゆっくりと走ってくる。とうとう、犬の首輪をつかみ、片手で自転車を押しながら、家まで連れ戻すしかなくなる。激怒して家に着いた彼は、もう学校へは行かないという。遅刻したからだ。<br /> 十分に成長しないうちに、コサックはだれかが出したガラスの砕片を食べてしまう。母親がガラスを排泄させるために浣腸をしてやるが、回復しない。三日目、犬がじっと動かなくなり、荒い息をして、母親の手を舐めようとさえしなくなると、母親はその子に、薬局まで走っていって、人に薦められた新薬を買ってくるよう命じる。大急ぎで薬局までいって大急ぎで戻るけれど、間に合わない。母親の顔はひきつり、うつろで、彼の手から薬ビンを取ろうともしない。<br /> コサックを埋めるのを手伝う。毛布にくるんで庭の隅の土のなかに埋めてやる。墓の上に十字架を立て、その上に「コサック」と書く。もう別の犬を飼いたいとは思わない。みんながみんな、こんな死に方をするはずはないとしても。<br /><br /> J.M.クッツェー『<a href="http://www.amazon.co.jp/少年時代-Lettres-J-M-クッツェー/dp/4622046806/ref=sr_1_10?ie=UTF8&s=books&qid=1228294929&sr=1-10">少年時代</a>』(みすず書房、1999年刊)より<br /><br /> **********<br />付記:少年時代のクッツェーが南アフリカの内陸ですごしたころのメモワールです。動物への陰湿な暴力を描いたシーンですが、訳したあとも忘れられない場面のひとつです。1999年の『Disgrace/恥辱』では、犬がとても重要な位置を占めてきます。『Lives of Animals/動物のいのち』へと発展するクッツェーの生命観は、少年時代のこんなエピソードのなかにもその核がひめられているのかもしれません。<br /><br />オリジナル・タイトル:Boyhood,Scenes from Provincial Life by J.M.CoetzeeKUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-2426728108946822367.post-75305068724929112022008-08-22T14:37:00.014+09:002008-11-30T11:57:57.514+09:00ティンカー・クリークのほとりで<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjDqfVzQRDL2AcG6fnVQttvdICrDM9b-yHApch-VH4jZQE8Vhu_Aid1fNUE9eLmt7z5Z7-k-dlb99qx5TW-tcH5OmNak1fP69yjmMn6fpqnQEfICJeRUlBQrHZpHLkYAWm8yXQJOWsh4WIn/s1600-h/51ZN0403ZEL._SS500_.jpg"><img style="float:left; margin:0 10px 10px 0;cursor:pointer; cursor:hand;" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjDqfVzQRDL2AcG6fnVQttvdICrDM9b-yHApch-VH4jZQE8Vhu_Aid1fNUE9eLmt7z5Z7-k-dlb99qx5TW-tcH5OmNak1fP69yjmMn6fpqnQEfICJeRUlBQrHZpHLkYAWm8yXQJOWsh4WIn/s200/51ZN0403ZEL._SS500_.jpg" border="0" alt=""id="BLOGGER_PHOTO_ID_5237214632120023650" /></a> この表紙に使われている木の実がなんだかわかりますか? わかる人は相当の樹木好きです。これはプラタナス、別名スズカケノキの実。樹皮が自然に剥けて、まだら模様になった幹が、遠くから見ると不思議な印象をあたえる木です。直径3センチくらいのまるい、かわいらしい、鈴のような実をつけます。大きな葉っぱが特徴で、秋になるとバサリ、バサリと地面に落ちてくる。<br /> 作者アニー・ディラードはこの本で1974年にピューリッツァ賞を受賞しました。日本で邦訳が出たのは1991年(めるくまーる刊)、もうずいぶん前のことですが、わたしにとってはいちばん最初に翻訳というものをやった思い出深い本です。途中で、もっぱらアフリカのほうを向いてしまったわたしに代わって、共訳者の金坂留美子さんが仕上げてくれました。<br /><br /> とにかく、人間の感覚のみずみずしさが、目も眩むほどの豊穣さで書き連ねられた書物です。心を澄まし、ひたすら見つめると見えてくる、わたしたちを取り巻く世界の不思議さ、自然界の生命の豊穣さ、そして、そのあまりの無駄遣い、そこに織り込まれた不条理な美しさ、地球という惑星の美しくも残酷な風景が、細部につぐ細部の積み重ねで、読む人を圧倒させる筆致で描かれていきます。<br /> 賑やかすぎる世俗の世界にいささか疲れた人には、とりわけお薦め。一気に読み通す必要はありません。ぱらりとページを開いた章を、折りに触れて、ぽつりぽつりと読むのに適した本です。心が洗われること必至です。<br /> いまは古書でしか入手できませんが、いつか、文庫になるといいなあ、と秘かに思っているのですが・・・。<br />*****************<br /><br />付記:プラタナスが日本に渡来したのは明治末期。街路樹として葉を茂らせるようになった大正初期に、さわやかな初夏の街の情景を歌った、アララギ派歌人の歌を一首。(篠懸樹=プラタナス、と読みます。)<br /><br /> 篠懸樹かげゆく女(こ)らが眼蓋に血しほいろさし夏さりにけり <br /> 中村憲吉<br /><br />アニー・ディラード著『ティンカー・クリークのほとりで』金坂留美子/くぼたのぞみ訳(めるくまーる、1991年刊)<br />オリジナル・タイトル:Pilgrim at Tinker Creek by Annie DillardKUBOTA Nozomi:くぼたのぞみhttp://www.blogger.com/profile/06540127232554534033noreply@blogger.com