
その間、イスラエル人ジャーナリストのアミラ・ハスは、ガザ住民との連絡を絶やさず、実名入りで被害のようすを「ハアレツ紙」に書き続け、いまも書き続けている。
その一部を「エスペランサの部屋」で訳出したのは、ほかでもない、この『パレスチナから報告します』(筑摩書房刊)を2005年5月に私が訳出したからだった。訳しながら、「そうだったのか!」と何度も思った。それまで、あまたの解説書では知り得なかった、まさに現場の事実を突きつけられたような思いがした。曇っていた視界がすっと開けた。
イスラエル人に向けて書かれた新聞記事は、遠いアジアの国の読者にとって、そのままでは咀嚼しきれない要素もあったけれど、現場から発せられる声は圧倒的な重さをもって響いてくる。ジャーナリズムとはこういうものか、という目から鱗の瞬間も何度もあった。
ところが2008年秋、この本は版元のカタログから落ちることになった。イスラエル/パレスチナを知るための基本図書ともいえる本だったのだが、本当に残念だ。まさかその年の暮れからガザ攻撃が始まるとは、思ってもみなかった。そしていまでは、古書でかろうじて入手できる状態。
現代における「カッサンドラ」といわれるジャーナリストの、現場からの切実な声が伝わってくる、唯一の邦訳書だったのだけれど・・・。
なんらかのかたちで復刻され、読者の手にいつでも入るかたちになることを、切に願っています!